その3 ●オカルト体質は遺伝か?●

それは朝イチのお寺さんから始まってました。
ご神木並の杉の木がたくさんあるお寺でお参りをして、納経所へ向かう階段を降りている時でした。
ふと、斜め後ろに誰かがいる気配がしたのです。
「…ねぇ。斜め後ろに誰かいる。」と、私。
「え?そうなん?あー、そいえばここのお寺はそーゆーお寺らしいよ。」と、旦那さん。
ネットでお四国巡礼についてアレコレ調べていた旦那さんは、このお寺でそーゆーことがあったよ体験記を読んだ覚えがあったそうなのです。
そっかあ。そーゆーのが分かりやすくなる霊場なんやな、と思いましたが、それだけでは終わりませんでした…。

その日は室戸岬のお寺にも行きました。室戸岬の展望台にも行き、そのまま次の札所に…と、思ってたんですが、何故か旦那さんが御厨人窟(みくろど)に行きたいと言い出したのです。
私はあまり乗り気では無かったんですが、行くことになりました。
室戸のお寺に行く前に御厨人窟の前を通ったのですが、その時はマイクロバスが止まっていました。
しかし、私たちが行った時には誰もいませんでした。
既になにやら雰囲気がアヤシイ…。そう思いました。
お大師さまが100日間の修行をなさって、ここで『空海』という名前を思いつかれたという由緒正しい場所です。アヤシイなんて言ったらバチが当たるなぁ、と思いつつも、やっぱりなーんかキツいなぁ、と感じていました。

すると洞窟からおじさんがひょっこり現れて、私たちに話しかけてきました。
おじさんはここのお掃除を毎日しているんだそうです。
そっか。人が入っても大丈夫なんだ。と、思ってしまったので、4人で洞窟に入り、お参りをしました。
ここですぐに帰れば良かったんですが、さっきのおじさんが何やら話しかけてきたのです。
「わしはなぁ、ある日、目から火の玉が出てなぁー。」
と、唐突におじさんは不思議な話を始めました。
「ひ、火の玉ですか…。」
「そう。目から火の玉が出てなぁ。びっくりして病院に行っても何ともない。不思議なこともあるもんだ、と思ってたら、それからお大師さまにお力をいただいたんじゃ。」
「お力って?」
「まぁ、超能力みたいなもんやな。」
おじさんはアッサリと電波系な答えをされるではありませんか。
ま、そーゆーのもアリだな、と思いつつおじさんの話を聞いていたら、それは突然きました。

全身、ぞわぞわ〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!

かなり強烈にきました。
「うわっ!」と、旦那さんにしがみついてしまいました。
おじさんはそんな私を見て、
「あんた、そーゆー体質なんやな?」と、言いました。
「…はい。多分、ちょっとばかしそうだと思います。」と、弱々しく私は答えました。
「よし。おっちゃんが外してやるから。大丈夫や。お大師さまのお力や。」と、私に言ってくれました。
超能力って、霊能力のことだったんですね。
おじさんは旦那さんに、私をしっかり支えるように指示しました。たまに大男でも倒れる人がいるそうなのです。
た、倒れるってーー?と、内心ちょっくらビビってしまいましたが、今はおじさんに頼るしかありません。

旦那さんにしっかり支えてもらって、おじさんの『霊外し』が始まりました。
「うん。おるな…。あんた、交通事故で友達亡くしてるやろ?」と、おじさんは言いました。
「はい。います…。」と、答えた途端、ある友達のことが思い浮かびました。何人か交通事故で死んでる友達がいたのですが、ある人だけが心に浮かんだのです。ああ、きっとあの人だ、と。
おじさんは、「頭から足に抜いていくからな。」と、言いました。
確かに頭がぽーっと温かくなってきて、だんだんその『温かさ』が下へと移動していきました。
すると、だんだん足が震え出し、膝がガクガクし始めました。
旦那さんがしっかり支えてくれてたので倒れることはありませんでしたが、もーーービックリです。足が勝手に震えるよぉ〜〜〜!と、内心ドキドキしてました。

温かいものが足の裏まで来た時、おじさんが「もう大丈夫や。」と言いました。
でも、まだ足がガクガクしてます。
「おじさん。足の震えが止まらんのですが…。」と、情けない声で私が言うと、「足踏みしてごらん。止まるで。」と、おじさん。
その場で足踏みをしたところ、おじさんの言うとおりピタっと震えは止まりました。

おじさんは、続けて言いました。
「あんた、そーゆー体質みたいやで、お遍路しとる間だけは大丈夫なようにしといたで。」
その時は、おじさんの言ってる言葉の意味がよく分からなかったのですが、「ありがとうございます。」と、私は深く頭を下げてお礼を言いました。


洞窟から出た後、オカンに「…今の、○○さんやと思うんやけど。」と、こっそり言ってみたところ、オカンも「私もそう思った。」と頷きました。
よくよく考えてみたら、その日は彼の命日の2日後だったんです。
きっと強い霊場だったために来やすかったんでしょう。だんだん彼の記憶が薄れてる私に「たまには思い出してよ。」と、言いたかったのかもしれません。

旦那さんはちょっとは慣れてたんですが、さすがにちょっとビックリしてました。
でもって、お義母さんは目が点になってました。 …ごめんね。お義母さん。ビックリさせて。ってか、こんな嫁で。


おじさんが最後に言ってた言葉の意味は、翌日から実感するようになりました。
まず、ヒッチハイクでお遍路さんしてる名古屋の大学生を車に乗せた時でした。
彼が車に乗り込んだ途端、一瞬でしたが、空気の固まりに押されるような感じがして、肺が圧迫されたようになりました。それはかなりの身体的衝撃でした。
何がなんだか分からなかったのですが、数時間、その大学生さんと話していて、分かりました。
彼、何かに護られてるって感じの子だったんです。
根拠はありませんが、どーしてもそんな感じがして仕方がなかったんです。
なので、あの衝撃は、彼の周りに張られた結界みたいなモノと私の周りに張られた結界みたいなモノとぶつかって、空気が圧縮して私の体を押しつけたんだな、と思いました。
『おじさんが結界みたいなん、張ってくれたんやな。』と、思いました。

その後、そのような衝撃的な体験はしてませんが、不思議と私のオカルト・アンテナがちっとも反応しなくなってました。
さすがにお大師さま縁の霊場って、どこもキツそうな雰囲気なのですが、なーーんにも感じなくなりました。
護られてるような感じ、というより、自分が出してる波もぜーーんぶ結界で跳ね返されてるような感覚でした。
出ない代わりに入っても来ない、って感じだったんです。
すごく不思議な感覚でしたが、お遍路中は本当にありがたかったです。


ちなみに、お遍路が終わった後、少ししてから急にその不思議な感覚が解けてしまいました。
旦那さんに言ったところ、「おー。やっぱりお遍路中だけの、期間限定結界やったんやな〜。おじさんの言ったとおりやねー。」と、笑ってました。


お大師さま、本当にありがとうございました。

あ、そいえば。 その大学生さん。住所と名前を書いてくれたので、後日、一緒に撮った写真をハガキにして送ったのに、宛て先不明でハガキが戻ってきたしまったんですよね…。
なんで、届かなかったんだろう…?


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